光明寺 佐光慈豊和尚のテレホン法話
三点着陸(平成19年10月号)
- 私も年とともに眠りが浅く夢を見る夜が多くなりました。最も多く見るのは、海軍時代矢田部航空隊での単独飛行成功時の夢です。
複葉の練習機、俗に言うトンボの前席に乗せられ、後席の教官の操縦による慣熟飛行の怖さは夢になりません。
何しろ生まれて初めて地上を離れ、空と地の空間に身を置き旋回・上昇・急降下・宙返り・背面等の繰り返しを約一時間、地上に戻った時は直立も出来ない有様でした。
それから毎日1回の離着陸の訓練が始まり、後席の教官と前席の私とは、操縦桿もスロットルも連動されており、伝声管で会話可能の仕組みになっていました。
離陸目標を定めてエンジン全開、高度300メ−トルで水平姿勢をとり、巡航速度を保ちながら飛行場を一周し、最後に着陸姿勢を取ります。
飛行機はプロペラの回転による推進力と、翼の受ける浮揚力とのバランスで飛ぶのですが、着陸する時は機体の重みを利用してのグライドで降下し、地上5メ−トルに達したときエンジンを零に絞って三点着陸をします。
母艦に安着できるような技術を習得する目的でこの三点着陸に重点を置くのです。
「機首を上げろ」とか「エンジンを絞れ」など教官の叫ぶ声と「ハイッ」と答える私の声、時には「馬鹿者」「のろま」など、怒鳴る声が外から聞こえる程の猛特訓が続きます。
1週間もすると単独飛行を許可される者が出てきます。
私は意固地で我流が多く出るので指導教官の評判も悪く単独飛行の許可も最後となりました。
後席に砂袋を乗せ離陸したものの、ふと我に返って「後席に教官はいない、注意もしてくれない」と気付いた瞬間、一種の緊張感が走りました。
若しも間違ったら命は無いで。
「教えられた通りやるしかない」と開き直ると「エンジンを絞れ」「機首を上げろ」と居ない筈の教官の声が聞こえるではありませんか。
「地上三米、今だ」の声に見事な三点着陸に成功し、意気揚々の思いでした。
「今のを見ろ、あれが模範的な三点着陸だ」と指揮所で見ていた教官が叫んだそうですが、一同整列した時に「今日は特別に全員の外出を許す」の許可が下りました。
この晴れがましい快挙が、時々私の夢に登場するのです。
推進力・浮揚力・降下力の三力、そして前輪の二つと尾輪一つの三点、それは修行の到達点である身(しん)口(く)意(い)の三密に通じる想い。
死のイニシエ−ションとしての三点着陸を果せと仏が私に教えてくれるようにも思える不思議な夢となって甦るのであります。
南無大師遍照金剛